草木染め・桜染め

草木染のこと

「草木染」この言葉が生まれたのは昭和5年のことだそうです。意外と最近なのだなと思ったけれど、ご先祖さまたちは太古の昔から身近な植物を使って布を染めてきたはず。つまり昭和5年には、すでに化学染料が浸透し「草木染」という名前をつけて残さないといけない程に、“植物で染める”という文化は身近ではなくなっていたのかもしれません。

何度目かの工藝ブームも手伝って、最近では展示会や工房のような特別な場所でなくても「草木染」と説明のついた製品をよく見かけようになりました。骨董というわけではないのに、すでに年代を重ねたような渋い色もあれば、透き通るようにフレッシュな色のものまで様々。自然から色をもらうからこそ、人には読み切れない色が生まれる「草木染」。改めて「草木染」とはなんなのか、作家さんのお宅にお邪魔して一から教えてもらいました。

まずは日本でもお馴染みの桜を染料に、草木染めの工程をたどっていきます。



1.染液を作る



材料となるのは、2月頃に剪定された花を咲かせる前の桜の枝。外側から見ても、皮を剥いでも、どこにもピンク色は見当たらないけれど、枝の中には春を待つあの淡い桜色が隠されています。

桜以外の不純物が入ると染めがりの色にも影響が出てしまうので、まずは桜の枝をよく洗って汚れを落とします。鍋に削り出しだ樹皮と同量程度の水を入れ20分程煮ると(熱煎)、水は濃いピンク色に染まります。この液を漉して染液の出来上がりです。


草木染め・剪定された桜の枝

▲剪定された桜の枝

草木染め・桜の樹皮

▲桜の樹皮

草木染め・桜の樹皮を煎じる

▲火にかけて煎じる


こうして染液を作った桜の樹皮は1回きりのものではありません。残った樹皮に再び水を足して熱煎することで、また新たな染液を作ることができます。植物の種類や部位にもよりますが、煎じる回数が少ない方が濃い色に染まるけれど、煎じる回数を増やせば増やす程、余計なものが取り除かれて植物本来の色素だけが残った染液になるそう。そうした染液で染められた糸や布は驚くほど透明度の高い色に染め上がるのだとか。



草木染め・桜の染液
▲熱煎することで鮮やかなピンク色が出てくる。写真は2回煎じて作られた染液。


2.煮染めする



染める糸や布は染めムラが出ないように事前にお湯で煮て洗い、よく絞っておきます。この下準備が終わったら染液を沸騰させ、布ならばそのまま中へ、糸を染める時は絡まないように糸に棒を通してから鍋の中へ入れます。時折引き上げて空気に触れさせながら20分程煮染めをします。その後冷めるまで2時間ほど置いて染液を十分に染み込ませます。



草木染め・煮染め
▲優しい桜の色に染まる絹糸


3.媒染する



ここまでの工程では、色素を含む水溶性の成分が水を介して布や糸に移った状態。このままでは洗えばまた成分が水に溶けて色が抜けたり変化してしまうので、アルミや鉄などの金属質で色を定着させる「媒染」をします。「草木染」に勝手ながら抱いていたほっこりしたイメージに反して、意外に理系な仕組みで色は発色し、定着します。

今回話を伺った作家さんは、漬物などにも使われる焼きミョウバン(アルミ成分を含む酸性)、古代から染色に使われてきた椿の灰(アルミ成分を含むアルカリ性)、江戸時代にはお歯黒に染めるのにも使われた木酢酸鉄(鉄分を含む酸性)の3種類の媒染剤を染料や染めたい色のイメージに合わせて使い分けているそう。

どの媒染を使うかによっても発色する色は様々。染料によっても異なるので一概には言えないけれど、一般にミョウバン媒染は黄色っぽく、鉄媒染は黒っぽく染め上がります。



草木染め・媒染
▲媒染中。色が開くように発色し、定着していく

今回は椿灰が媒染剤。椿灰にお湯を加えて混ぜ、しばらく置いてできた上澄み液を媒染剤として使用します。椿灰の媒染剤を人肌程度のお湯でPH9~10くらいに調整したら、先ほど煮染めした糸を入れて20分程漬け置きます。漬け置いている間も、染めムラが出ないように定期的に糸を絞って空気に触れさせます。作家さんや職人さんたちはこれを「はたく」と表現するのだとか。

媒染後、よく絞って空気に触れさせた糸を再び温度を上げた元の染液の中に戻して20分ほど煮染めします。この再び煮染めする工程を省く人も多いそうですが、最後に一手間かけることで色がよりしっかりと定着するのだそうです。



4.仕上げ



最後に色が出なくなるまで流水でよく洗い、日光にあてて干します。日に当てるなんて、せっかく染めた色が褪せてしまうのでは?と心配してしまいましたが、そもそも日常使いの布を染めてきた草木染。日の光で激しく変色してしまうようでは困りものです。制作の段階で、必要な変色は先に促しておきます。また、手間のかかる工程の1つ1つをきちんと経て染めた布はしっかりと色が定着しています。化学染料で染めた布があっさり日焼けするような退色は起こらないと、今までの草木染の布たちが証明しています。
※染料によっては日に弱いものもあるので、直射日光ではなく、日陰で干すこともあるそうです。



草木染め・日干し
▲色ムラを防ぐため、干している間も定期的に位置を変えて均一に陽の光をあてます


完成



染料や媒染剤によって工程に違いはありますが、これら一連の作業を経てやっと草木染の糸の完成です。手間を惜しまずに一つ一つの工程を丁寧に行い染めていくことで、思いがけない美しい色が現れたり、堅牢度の高い染め物が出来上がります。



草木染め・桜染めの絹糸
▲左:優しい桜色に染まった生糸、 右:真綿の紡ぎ糸


草木染め・桜染めの風呂敷
▲左:2009年に1,2回目の染液で染めた風呂敷、 右:今年、5,6回目の染液で染めた風呂敷

草木染めの染料である植物は生き物。たとえ同様の手順を踏んでも、同じ色になるとは限りません。それぞれに個体差もあれば、環境によっても色に違いが生まれます。写真(↑)にある2枚の風呂敷は、どちらも桜の枝を染料に染めたものですが、使った桜の枝の違い、染料を煎じた回数の違いで、ここまで違う色に染まる面白さがあります。次回はそんな色の追求についてのお話です。(つづく)


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