2017.04.27
1.染液を作る
材料となるのは、2月頃に剪定された花を咲かせる前の桜の枝。外側から見ても、皮を剥いでも、どこにもピンク色は見当たらないけれど、枝の中には春を待つあの淡い桜色が隠されています。
桜以外の不純物が入ると染めがりの色にも影響が出てしまうので、まずは桜の枝をよく洗って汚れを落とします。鍋に削り出しだ樹皮と同量程度の水を入れ20分程煮ると(熱煎)、水は濃いピンク色に染まります。この液を漉して染液の出来上がりです。
▲剪定された桜の枝
▲桜の樹皮
▲火にかけて煎じる
▲熱煎することで鮮やかなピンク色が出てくる。写真は2回煎じて作られた染液。
2.煮染めする
染める糸や布は染めムラが出ないように事前にお湯で煮て洗い、よく絞っておきます。この下準備が終わったら染液を沸騰させ、布ならばそのまま中へ、糸を染める時は絡まないように糸に棒を通してから鍋の中へ入れます。時折引き上げて空気に触れさせながら20分程煮染めをします。その後冷めるまで2時間ほど置いて染液を十分に染み込ませます。
▲優しい桜の色に染まる絹糸
3.媒染する
ここまでの工程では、色素を含む水溶性の成分が水を介して布や糸に移った状態。このままでは洗えばまた成分が水に溶けて色が抜けたり変化してしまうので、アルミや鉄などの金属質で色を定着させる「媒染」をします。「草木染」に勝手ながら抱いていたほっこりしたイメージに反して、意外に理系な仕組みで色は発色し、定着します。
今回話を伺った作家さんは、漬物などにも使われる焼きミョウバン(アルミ成分を含む酸性)、古代から染色に使われてきた椿の灰(アルミ成分を含むアルカリ性)、江戸時代にはお歯黒に染めるのにも使われた木酢酸鉄(鉄分を含む酸性)の3種類の媒染剤を染料や染めたい色のイメージに合わせて使い分けているそう。
どの媒染を使うかによっても発色する色は様々。染料によっても異なるので一概には言えないけれど、一般にミョウバン媒染は黄色っぽく、鉄媒染は黒っぽく染め上がります。
▲媒染中。色が開くように発色し、定着していく
4.仕上げ
最後に色が出なくなるまで流水でよく洗い、日光にあてて干します。日に当てるなんて、せっかく染めた色が褪せてしまうのでは?と心配してしまいましたが、そもそも日常使いの布を染めてきた草木染。日の光で激しく変色してしまうようでは困りものです。制作の段階で、必要な変色は先に促しておきます。また、手間のかかる工程の1つ1つをきちんと経て染めた布はしっかりと色が定着しています。化学染料で染めた布があっさり日焼けするような退色は起こらないと、今までの草木染の布たちが証明しています。※染料によっては日に弱いものもあるので、直射日光ではなく、日陰で干すこともあるそうです。
▲色ムラを防ぐため、干している間も定期的に位置を変えて均一に陽の光をあてます
完成
染料や媒染剤によって工程に違いはありますが、これら一連の作業を経てやっと草木染の糸の完成です。手間を惜しまずに一つ一つの工程を丁寧に行い染めていくことで、思いがけない美しい色が現れたり、堅牢度の高い染め物が出来上がります。
▲左:優しい桜色に染まった生糸、 右:真綿の紡ぎ糸
▲左:2009年に1,2回目の染液で染めた風呂敷、 右:今年、5,6回目の染液で染めた風呂敷