骨董市や古道具屋へ行く度に、わが家に1枚、2枚と増えてきた印判手(いんばんて)の皿。着物にも通ずるような古典柄があったり、変わりダネの柄があったり…シンプルなデザインの食器が主流の今、我が道をいくガツンと個性的な印判手はなんとも魅力的です。そんな印判手をためつすがめつ愛でながら、つらつらつらとその魅力を紹介したいと思います。
一般に印判手(いんばんて)、または短く縮めて印判(いんばん)とも呼ばれているのは、明治から昭和初期にかけて大量生産された普段使いの器たち。文明開化の波とともに日本にやってきた舶来のコバルトブルーがトレードマークです。
そもそも印判手とは型紙を使う「刷り絵」や「エッチング(銅版刷り)」など印刷の技術を使った絵付けの技法のこと。手描きと違い、同じ絵柄を複数作ることができる量産に適した技法です。
印判が大量に普及した明治期には、印刷した転写シートを磁器に写して焼き付けるという方法をとっていました。印刷とはいえ当時は手仕事の部分も多く、写真のように同じ絵柄でもよく見るとかすれている部分があったり、版を置く位置がズレていたりと微妙な、時に大胆な個体差があるのも印判の特徴です。
手仕事ゆえの不揃いも魅力のひとつではあるけれど、どうせなら綺麗な一枚が欲しいもの。何枚も積まれた同じ絵柄の皿を見比べては、一番良さそうなものを探すのがお決まりです。
印判の面白さは、その豊富な柄のバリエーション。植物や動物、魚など自然にモチーフを求めたものから、「文明開化」の文字を背景にパラソルをさすご婦人を描いた“風俗もの”、日章旗や兵隊さん、戦争の多かった当時を色濃く写した“世相もの”など様々。
安いものなら1枚数百円で買える印判皿も、珍しい柄や人気の高いジャンルの絵柄はコレクターアイテムとして高値が付いているようです。
印判は銘々皿やおちょこなどの食器から、火鉢や花器といった日用品に至るまで幅広く普及しましたが、個人的に好きなのはこのなます皿。名前の通り、江戸の昔からなます(生の魚や肉、野菜を酢で調理した料理)を入れるのに使われてきました。少し深さのある程よい大きさは、副菜を盛るにも、取り皿にするにもちょうどいい塩梅です。そんな大小様々の印判皿たちのおかげで、今日も食卓は賑やかになりそうです。